熱力学 [1] - 熱力学第一法則

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準静的な過程

 熱力学的な変化の過程を経て、最終的にそれ以上変化しなくなる状態が考えられ、この状態を熱平衡状態と呼びますが、その時の状態状態によって定まる巨視的な量 (圧力、体積、温度など) を 状態量と呼びます。通常、物質の熱平衡状態は、温度 T, 体積 V, 物質量 n によって記述することができます。理想気体の状態方程式
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というものがあったように、一般に気体の場合、R は定数なので、T, V, n を特定すれば圧力 P が特定されます。そういう意味で、P は T または V の代わりにすることもでき、(T, V, n) の他に (P, V, n) といった状態量の組み合わせでも、気体の状態を特定することができます。
 この、熱力学的な変化には、元に戻せる変化と戻せない変化があります。何らかの変化を加えると、最終的に熱平衡状態に行き着き、状態量が特定できますが、一般に熱力学的な変化の途中、つまり平衡状態に達するまでの非平衡な間は、複雑に変化が起きるので状態量が特定できません。言い換えれば、平衡状態では状態量が特定できるので、状態量どうしのグラフ (通常 T-V 図、P-V 図が用いられる) を作ったとしたら、平衡状態では点が打てますが、非平衡状態は点が打てない (どこにいるのか分からない)ということです。
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そのため、点線で示したように、まっすぐなのか、曲線状なのか、それとも数式で表しづらそうな変な経路で熱平衡状態に達したのか、分かりません。これは困ります。
 ここで登場するのが、準静的過程という変化です。発想は簡単に言えば、「ある程度の時間が経てば熱平衡状態に達し、点が打てるというのであれば、少しずつ変化させてその都度熱平衡状態にさせ続ければ、連続的にグラフが書けるのではないか?」ということです。具体的には、変化の幅を微小に取ります。そして、分割したそれぞれの微小変化に対して、系が熱平衡状態に達するまでに必要な時間よりもさらに十分多くの時間をかけて到達するようにします。このようにすることで、状態量の変化過程をグラフに表すことが可能になります。
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そして、準静的過程は幅が微小 (無限小) であるため、どちら向きに進むこともできます。つまり、準静的過程は A-B という変化も、 B-A という逆向きの変化も行うことができます。このような過程は逆向きに進めることから可逆であるといいます。しかし、一般の変化は、「極めてゆっくりと」変化させることができないものばかりであり、不可逆です。
 下図のように、A-B 間の変化を経た後、また別の変化を経て、元の A に戻ってくるような過程も考えられます (別に、熱平衡状態は A だけで点線のループを描いている図でも同じです)。
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たとえば、蒸気機関は、水蒸気に熱を吸収・放出させることで膨張・収縮が起こり、それによって生まれた仕事を使って動いています。こういった場合、定常的に仕事をしてくれなければ困るので、上のように、定期的に同じ過程を繰り返し続けることが必要になります。このように、始点・終点の熱平衡状態が同一であるような一連の過程はサイクルと呼ばれます。実用上重要になってくるのがこのサイクルで、どれくらいの仕事を行えるのか、どれくらい熱のやりとりが起こるのか、など、そういったことを調べる必要が出てくるのですが、何しろ一般のサイクルは図のように点線 (不可逆過程のため途中に点が打てず分からない) のため、こういったサイクルを考える上で、本来変化は不可逆なものではありますが、可逆の準静的過程に理想化して置き換えることでそのサイクルの性質を調べるといったことが行われます。この意味で準静的過程は重要で、様々な準静的過程の性質、およびそれによって構成されたサイクルの性質を見ていくことが必要になります。

熱力学第一法則 [1] - 熱力学第一法則

 実際に準静的過程を見る前に、熱や仕事といった量を特定するための下準備が必要です。これを行うために大変重要であるのが、力学におけるエネルギー保存則のような存在である熱力学第一法則です。気体 物体) の温度が高いというのは、その気体を構成している分子の動きが激しい (エネルギーを多く持っている) と見ることができます。熱量、たとえば水をストーブの上に置くと、水の温度が上がります。これはストーブの熱によって、水の温度が上がった、つまりストーブがある一定の「熱量」を水に与えたことによって、温度が上昇した、つまりエネルギーが増加したとみることができます。同様に、理想気体には
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という状態方程式があったように、たとえば、圧力 P が大きくなると、温度 T は増加します。ピストンを思い浮かべると想像がつきやすいのですが、圧力が大きくなると、体積は小さくなります。熱平衡状態から縮めるということは、何らかの手を加えなければなりません。熱平衡状態から自発的に縮んでいくことはないのです。これは、手で縮めることによって、圧力を大きくすることができます。力を加え、体積を縮めたので、ここには仕事が生じます。つまり、仕事によっても温度を上げる、エネルギーを増加させることができます。
 熱と仕事は別物であるかのように見えますが、このように温度を上げる (下げる) ことができるという点で等価性があります。手をこすれば暖かくなります。仕事によって摩擦を引き起こせば、それは熱になります。早い話が、温度を上げるための熱を与える手段は、直接高い熱源から熱を与える以外にも、仕事を与える方法があり、仕事と熱は等価なものであるということです。ただし、エネルギーという観点で見れば等価ではありますが、行き来が自由かというとそうとは限りません。仕事は摩擦など熱に 100% 変換することができますが、熱というのはエネルギーで最も質の低い形態ということもでき、熱は 100% 仕事に変換することができません (これを数式などで具体的に表現した物は熱力学第二法則と言います)。
 さて、ピストンの話で行くと、物体に仕事をすると、物体のエネルギーが増えます。ピストンの方の気体の視点で見れば、「仕事をされた」ので、エネルギーが増えました。逆に仕事を気体がすれば、エネルギーは減少します。これは好みの範囲なのでこの表現が嫌なら符号を逆にすればいいだけなのですが、一般に仕事は「する」方を正に取り、熱量は「吸収した」方を正に取ります。つまり、吸収した熱量 Q と、した仕事 W を用いれば、物体のエネルギー (ここでは U とする) の変化 ΔU は、
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と表現できます。これが熱力学第一法則の数式的表現です。ここでいう Δ というのはその本来の意味、つまり「変化した量」という意味であり、微分積分における「微少量」とは必ずしも一致しないので、注意が必要です。そのため、紛らわしいのである状態 A から B に達したとき、ΔU と書かずに Ub-Ua と表現する書籍もあります。また、符号ですが、「ΔU=Q+W」と表現する書籍も存在します。これは、「された仕事」を正と取っていることによるもので、仕事をした場合 W<0 となり、やはり上の式と本質的には違うものではありません。この辺の符号の取り方は好みの問題であるので、何でもよいと思いますが、ここでは最も多く採用されている上の Q-W の表現をとります。また、この物体のエネルギー U のことを、内部エネルギーといいます。後述しますが、実は、この内部エネルギーは状態量です。つまり、ある熱平衡状態に対して (基準点を決めれば) 一意的に定まる量になっていて、実際、理想気体の内部エネルギーは温度だけで表現できることが証明できます (これも後述)。

熱力学第一法則 [2] - 内部エネルギー U と微分形

 内部エネルギーが状態量であるという事実は、熱力学第一法則から分かります。準静的過程でなくてもよい、A-B に到達する任意の過程を 2 つ考えます。また、これとは別に、準静的な過程を 1 つ考えます。
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図はこのようです。準静的過程である経路 3 だけは、準静的なので逆行することも可能、つまり過程 B-A をたどることが可能になっています。他は任意の過程なので不可逆であり、B から A に戻ることはできません。このうち、経路 3 の逆行過程と経路 1 または 2 のいずれかを結べば、もとの状態に戻ってくるサイクルをなします。サイクルにおいて、エネルギーの変化量は 0 になります。元の状態に戻ってきたのに、エネルギーが増減していたと仮定すると、エネルギーが何もないところから生まれたか、消滅したことになってしまいます。サイクルを運転し続けるとエネルギーが勝手に増えていくことはなく、このような機関は第一種永久機関と呼ばれ、実現不可能です。したがって、サイクルにおいては ΔU = 0 となります。たとえば、経路1 と経路 3 の逆行過程でサイクルを作ったとします。このとき、全体としての内部エネルギー変化を、サイクルを A-B 間の内部エネルギーの変化、B-A 間の内部エネルギーの変化に分割することができます。
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また、B-A は準静的過程である経路 3 の逆行過程なので、マイナス符号をつければ A-B の過程に置き直すことができます。
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これより、
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であることが分かります。同様に、任意の過程 2 に対しても、経路 2 と経路 3 の逆行過程でサイクルを作ればただちに
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であることが分かります。二つの式は右辺が同じ値であるため、最終的に
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であることがわかりました。これによって、任意の 2 つの過程における内部エネルギーの変化が同じであることが分かったため、始点と終点が一致する変化は、どのような変化であっても Q-W の値が同じになるということができます。ただし、Q, W それぞれの値は異なってもよいことに注意します。あくまで等しくなるのは ΔU=Q-W だけです。
 これより、ある平衡状態からある平衡状態に移行すると、常に内部エネルギーの増減の量 (Q-W の値) が同じになることが判明しました。この事実は、熱力学第一法則では、内部エネルギーの差についてしか規定していないため、「ある点を基準点にすると、任意の点の内部エネルギーの値を定めることができる」ということを意味します。仮に、固定された基準 O (T, V, n の値は固定値) に対して、任意の点 P (T, V, n) への過程 OP を考えると、この OP 間での Q-W は経路によらないのですから、状態量である T, V, n の組み合わせによってこの変化を表現することができます。つまり、U は始点終点によってのみ定まる値なので状態量になっています。そこで、基準 O から任意の点 P (T, V, n) までの Q-W の変化量を、U(T, V, n) と定義します。
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これによって、ここまでの関係図は上のようになります。通常は、暗黙のルールとして、O は記載しないでおきます (U には定数分の任意性があり、差を取ればそれが打ち消されるため、O の位置は通常問題にならない)。
 また、U は U(T, V, n) の状態量になっているので、多変数関数と見なせます。つまり、この U に対して全微分 dU が (当分は物質量は変化しない簡単な場合を考えるので、n は定数とし、T, V, P いずれかの 2 変数関数と見なします)
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と定義されます。これは物理的な理由というよりは、微分積分のごく基本的なところによるものです。全微分という難しそうな名前が付いていますが、「多変数関数の微小な変化は、それぞれの変数が微小に変化したときの寄与を足し合わせたものに等しい」といっているだけです。たとえば、f(x, y) という関数があったとして、この関数が微小に df 動いたとすれば、ベクトルの分解よろしく x 方向に微小変化するときの係数 (傾き) ∂f/∂x に実際変化した量 dx を、そして y 方向にも微小変化する時の係数 ∂f/∂x に実際変化した量 dy をかけ、これら合わせたものに等しくなるというだけの話です。ここで、通常偏微分は右下に T や V などの添え字は書かないものですが、熱力学の場合固定されている変数をわざわざ添え字として書いておくことが慣習のようなので、ここでもそのような表記にならいます。
 これによって、熱力学第一法則の微分形を定義することができます。変化量 ΔU = Q-W だったことを思い出せば、この変化の幅 ΔU が微小量になる極限で、
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の関係が成り立つことになります。特に、熱力学第一法則の微分形として、
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が用いられます。微小熱量、仕事にプライム ( ' ) がついているのは、これが状態量ではない (全微分が定義できない) ことを意味しています。既に書きましたが、熱力学第一法則は Q-W の値が同じになるのであって、状態 A から Q しか吸収せず B に到達する経路や、W しか吸収せずに B に到達する経路など、Q や W そのものの値は経路に大きく依存し、同じには基本的になりません。つまり、これは始点終点によってだけでは決まらないので、状態量ではなく、関数関係が仮定できないため、全微分が定義されません。こういった量は状態量と区別する目的でプライムが付加されます。見方を変えると、熱量と仕事、状態量でないものの和をとったら状態量になった、とみることもできます。
 これが、熱力学第一法則の基本的な準備になります。次に、具体的にこの熱量や仕事といった量は、準静的過程においては求める方法が存在するという事実について調べます。それによって、最終的にサイクルの効率といったより実用的なことを調べることができるようになります。

熱力学第一法則 [3] - 仕事 W の求め方

 微小に仕事をするとき、dW は
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の関係があります。これに基づいて仕事を求めていくことになります。この関係は、以下のような最も簡単な図によって導出することができます。
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ピストンが dW だけ膨らみ、仕事をしたとすると、 Fdx だけ仕事をしたことになります。外界の圧力 P に抗するため、同じだけの力 F=PS が必要なので、 Fdx = PSdx ですが、 Sdx は微小体積 dV と一致します。もちろん、わずかに動けばそれに応じて圧力も変化し続けるので、P を一定で見ているのはおかしいと思うかもしれません、しかし、微少量なので結局寄与は dPdV つまり二次の微少量になるので、0 極限では無視されますから、「P の値が変化しないような微小変化での出来事」としてこのようにおいてよいのです。もし、思い出す際はこの図で十分ではありますが、これはピストンではない一般の場合でも成立します。
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数学的には厳密さがないかもしれませんが、結局、dV はそれぞれの区切りを直方体と見なしてもよいような微小区間ごとに dndS の寄せ集めを行っているだけとなります。
 以上、準静的過程において、この dW を積分すれば、した仕事 W を具体的に求めることができるようになります。

熱力学第一法則 [4] - 熱量 Q の求め方

 熱量も同様に、熱力学第一法則の微分形を用いて求めることができます。熱力学第一法則の微分形を移項すると
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となります。dU は状態量なので全微分
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および
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を代入することで
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という d'Q に関する関係式が生まれます。これで、状態量ではない d'Q を状態量によって特定するための関係式が生まれたということになります。
 仕事と違って熱量は求めにくそうです。しかし、準静的過程において、熱量を d'Q を積分することによって求める必要があるのは、実質的に 2 つの場合だけです。体積を一定にした定積過程と、圧力を一定にした定圧過程の 2 つです。少し先取りすることになりますが、攻略法的な観点で行くと、熱力学という科目で取り扱う準静的過程というのは定積過程と定圧過程、断熱過程と等温過程の 4 つしかありません。このうち、断熱過程は熱量のやりとりがない過程をいうので d'Q = 0 でそもそも熱量を求める必要がありません。等温過程について、詳細は後述しますがこの場合 Q=W になるので d'Q を積分しなくても PdV の簡単な積分だけで済みます。と、いうわけで考えないといけないのは定積過程と定圧過程だけ、ということになります。
 定積過程とは、体積を一定にした場合の過程の事で、体積が変化しないため dV = 0 になります。このとき、ただちに
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の関係が得られるため、
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と置き換えることで、
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の関係にあることがわかります。実は、理想気体の場合、内部エネルギーは T に関する一次関数になるので、T で偏微分すると定数になります (これについては後述)。つまり理想気体では Cv は定数であり、この比例定数を定積比熱といいます。比熱は、現在の温度から 1 度あげるために必要な熱量を意味することとなります。一般には定数ではないため、理想気体でなければそう簡単には積分はできません。
 定圧変化は、圧力 dP = 0 の場合の変化になります。
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このあたりは機械的に処理できるところです。これが定圧比熱になります。これも後述ですが、Cp も理想気体の場合、定数です。与えた条件によって比熱の値が違っていることが分かります。熱力学で使うことになるのはこの 2 種類の比熱だけです。
 以上より、定積変化の場合熱量は d'Q = Cv dT の積分によって、定圧変化の場合熱量は d'Q = Cp dT の積分によって求まることが分かります。特に理想気体の場合、Cv, Cp は定数なので簡単に積分ができます。

準静的過程 [1] - 定積過程

 これで、d'W, d'Q を特定するための準備が整いました。実際に熱力学で考える必要がある準静的過程は 4 つあります。一つ目が体積を一定にする定積過程と呼ばれる過程です。この過程を経たとき、内部エネルギーの変化はどのように記述できるのでしょうか。
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定積変化は、体積が変化しないので、一般に用いられる P-V 図、T-V 図において上のように直線で表されます。準静的過程であるので温度が上がる定積加熱と温度が下がる定積冷却というものが考えられます。
 ここで、体積は一切変化しないので、dV=0 となります。つまり、
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が成り立ちます。体積が変化しないので、物体は仕事をしないのです。したがって、熱量を受け取るか、熱量を放出するかだけになります。その熱量の変化は、定積比熱 Cv を用いて、
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と表現されます。理想気体の場合、Cv は定数なので積分の外に出すことができ、
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であることが分かります。点 B の方が温度が高ければ、Q は正で熱量を吸収したことになり (定積加熱)、B の方が低ければ、Q は負で熱量を放出したことになります (定積冷却)。
 以上から、内部エネルギーの変化は
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となります。

準静的過程 [2] - 定圧過程

 圧力を一定に保ちながら経る過程を定圧過程と言います。このとき、圧力が一定なので P = const. (一定), dP=0 が成り立っています。P-V 図においては、P 一定なので横方向の直線になります。T-V 図においては、理想気体の場合は、状態方程式より、T=(P/nR)V より、比例関係にあるので、ななめ方向の直線になります。
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このとき、熱量を求めるには、既に示したように、定圧過程の場合、定圧比熱 Cp を用いることで
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の積分を計算します。理想気体の場合、Cp は定数なので、求めることは容易で、
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となります。
 仕事も全く同様です。
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P が定数なので、積分は簡単です。
 内部エネルギーの変化は、理想気体ならば
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と表現することができます。

準静的過程 [3] - 等温過程

 温度を一定に保ちながら経る過程を等温過程と言います。このとき、温度が一定なので T = const. (一定), dT=0 が成り立っています。T-V 図においては、T 一定なので横方向の直線になります。P-V 図においては、理想気体の場合は、状態方程式より、T=(nRT)/V より、半比例関係にあるので、右に進むほど落ちていく曲線になります。
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このときの Q, W を特定するためには、一つ重要な実験結果を知っておく必要があります。これは何かから導出できるもの、つまり理屈というよりは単に実験結果なので、一つの事実として知っておいた方がよいものです。それがジュールの実験とよばれる実験です。これは、自由膨張という、真空に気体が膨張していく不可逆過程についての実験なのですが、
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上図のように、二つの容器があり、外側は断熱されているとします (外界との熱のやりとりがない)。水とは熱平衡状態にあり、中の気体も温度 T で同じです。容器のうち、左側には気体が入っていますが、右側の容器は気体が入っておらず、真空となっています。ここで、気体が右側の真空に膨張していくことを考えるとき、真空と言うことは何も気体の分子がいないのですから、気体が膨張していっても広がり放題であり、何かの圧力に抗して広がっていく必要がないと考えられます。つまり、物体は体積が広がるにもかかわらず、仕事をしません。W=0 です。そして、広がりきった後、温度を計測した結果、温度は T のままで一切変化することがありませんでした。これが実験結果であり、言い換えれば T=const. (一定), dT=0 です。これより、温度が変化しなかったため、気体が正味吸収した熱量は 0 である、Q=0 ということができます。したがって、自由膨張においては、Q=W=0、ΔU=0 が成立します。
 ここで、ジュールの実験より、一つの事実を得ました。
温度が一定の環境下 (dT=0) で膨張する過程は、ΔU=Q-W=0
ということです。dT=0 とは、等温過程のことを言っています。簡単に言えば、自由膨張と等温過程は始点終点が同じなのです。熱力学第一法則より、Q と W の値それぞれはもちろん自由膨張とは異なりますが、U は状態量なので、ΔU = 0 であることは等温過程でもそのまま成り立ちます。したがって、等温過程においては
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であることが分かります。これが正の場合、等温過程では熱量を吸収していると同時に仕事をしていることになり、負の場合、熱量を放出したかわりに同じだけ仕事をされることが分かります。理想気体では、状態方程式 PV=nRT より、
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であることがわかります。

準静的過程 [4] - 断熱過程

 断熱過程は最もコツがいる変化です。その名の通り、外部との熱のやりとりを絶って経る過程のことです。d'Q=0 また Q=0 が成り立っています。
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図はこのようです。P-V 図において、断熱線は等温線よりも変化が急になります (後述)。
 このことから、Q=0 で求める必要がありません。仕事は、PdV を積分すると、うまくいきません。なぜなら、他の過程と違い、P, V, T ともに動き得るからです。PdV = nRT/V dV となりますが、T は定数ではないのでそのままでは積分できません。この仕事を求める方法として、主に、後述のポアソンの法則を用いて積分可能な形に持って行く方法と、この断熱過程を準静的等温過程と準静的定積過程でつないだサイクルから求める方法があります。前者は計算が面倒なので、ここでは後者の方法を紹介します。
 問題となっている断熱過程 AB に対して、等温収縮、定積加熱を経て元の A に戻ってくるようなサイクルを考えます。
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このようなサイクルです。熱力学第一法則より、サイクルの内部エネルギー変化は 0 になることから、
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が成り立ちます。ここで、等温過程における内部エネルギーの変化は、ジュールの実験の結果より、
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となること、および、定積過程では仕事が 0、断熱過程では熱量が 0 となることから
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であり、結局、断熱過程における仕事とは、
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で求まることが分かります。こうなればもう簡単です。BC は等温変化なので、B における温度と等しくなります。したがって、A と B の状態量だけでこの過程の熱量を表現することができ、理想気体の場合、
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であることが分かりました。

マイヤーの関係式

 マイヤーの関係式という、理想気体における定積比熱と定圧比熱についての関係を表した式があります。
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という式です。小文字の c は C=nc の関係にあります。元々の C が n モルの物体の時の比熱と定義していたので、1 モルあたりに直したときはこのような定義になるわけです。ですから上の式は ncv=ncp+nR ということもできます。これも求め方はいくつかあります。マイヤーサイクルと呼ばれる、自由膨張 (不可逆過程)、定圧過程、定積過程からなるサイクルに熱力学第一法則を適用してこの関係式を得る方法と、数学的に
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から理想気体における条件を適用して計算して出す方法です。後者の方が簡単なのでここでは後者のやり方を紹介します。
 まず、理想気体の場合、内部エネルギーは T のみに依存する一変数関数になるという事実を知っておく必要があります。これはジュールの実験より導き出せる事実です。ジュールの実験を思い出すと、内部エネルギーに変化はなかったので
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が成り立ちます。ここで、温度が変化しなかったことから、dT=0であり
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体積には変化があるので、dV=0 ではありません。したがって、このジュールの実験結果に対して辻褄を合わせるためには、理想気体は
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を満たさなければならないということになります。これは、内部エネルギーを V で偏微分したところ、0 になる、つまり内部エネルギーは体積によらないことを意味しています。したがって、理想気体では
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が成立します。このことから、
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であることがわかります。理想気体の場合、V=(nRT)/P ですが、一番右の偏微分は、P を定数とみなし偏微分するので、T だけが消え
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の関係が分かります。したがって、モル比熱に直せば
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が示せます。

ポアソンの法則

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