ベクトル解析[7] - 直交曲線座標系

blog.li.nu >
この記事が役に立ったら
 ラプラシアンとは、以下のようなもののことでした。
001.png
覚えることは理解することとは違いますが、まあこれ自体は分かりやすい表記なので意思の有無にかかわらず覚えたことでしょう。忘れることもなさそうです。
 ナブラやラプラシアンといった記号の扱い方は、[2] の記事で紹介しました。この記事で紹介した範囲では、ナブラというものはとても簡単だったはずです。しかしながら、ある程度勉強を進めていくと、突然次のようなものに遭遇します。
002.png
あの覚えやすい記号だったはずのラプラシアンが、こんなにも意味の分からない表記に化けているのです。これは、先ほどのxyz 座標ではなく、極座標(球座標)におけるラプラシアンです。座標系が違うとラプラシアンやナブラの表記が変わるのです。
 これは一見複雑に見えますが、とあるルールに従って簡単に出すことができます。この記事では難しい議論を全面的に回避した上で、そのルールを探ることを目的とします。しかしながら、ベクトル解析の7番目の記事にしているだけあって、勾配・発散、また発散定理のことは前提とします。

直交曲線座標

 3次元空間を考えます。一般の座標系のため、 x, y, z とは限りません。そこで変数は q とおきます。ある微小距離 dl だけ移動した時、その表記が三平方の定理で表現される、つまり
003.png
と表現されるような座標系を、直交曲線座標と呼びます。
 xyz 座標はいずれの h も 1 で、曲線ではありませんが直交曲線座標系の一つといえます。要するに、その座標系における変数の単位ベクトルが全部直交しているような座標系ということです。全て直交していれば純粋に 3 方向のベクトル成分の足し合わせと見なすことができ、ちょうど上のような表記にできるのです。

極座標における微小量

 上の話は完全に一般論であり意味がよく分かりません。そこで、例を導入しましょう。極座標の場合を考えます。
021.png
r は直線的に変化するのですが、θ, φ は回転方向を向くのが分かります。r を半径とした円周をそれぞれ描いたとき、接線方向になるわけです。ちょっと図が良くないというか、変化量を大げさにしすぎたのでピンクのラインが直交してないように見えますが、これは直交します。このように極座標もその点その点で dr, dθ, dφ ベクトルの向きが変わっていくのですが、どの点でもこのような図を思い浮かべれば常に直交していることがわかります。
 しかし、この場合 xyz 座標と明確に違う部分があります。それは尺です。確かに xyz 座標と角度は違うものの同じような直交する3本の軸はその点で作れるのですが、それぞれのパラメータが変化する時の変化量が3つの軸では平等ではないのです。
 図を見ると、r 方向の変化量は今までの x, y, z の軸と同じ長さのスケールなので、r 方向へ dr だけ変化すれば、そのままこの方向への変化は dr で表現できます。ただし、角度は違います。角度というのはある意味倍率であり、実際の長さそのものではありません。つまり、r の大きさに応じて明らかに実際の変化量は変わってきます。弧の長さは角度を x とすると rx で表現されますから、r が大きいほど同じ角度の変化でも実際のずれは大きくなっていきます。したがって、角度が dθ 変化すれば実際には rdθ, φ 方向が dφ 変化すれば実際には rcosθdφ の移動があることになります。これは図より明らかです。今考えている位置ベクトルから、各パラメータが微小量変化したとき、実際にはどれだけの移動が起こるのかで考える、ここが重要です。
 したがって、直交する3方向それぞれにおいて、パラメータが微小に変化した場合、実際この3つの軸で起きる変化の量は
004.png
であることが分かります。ここで出てくる微小量の係数が h1, h2, h3 に対応するのです。dl や h は、極座標の場合、この直交する3方向で三平方の定理を適用して
005.png
であることが分かりました。この h はそれぞれの方向のいわば「倍率」です。3 つのパラメータが同じ尺でものを表していないために、このようなことが起こっているのです。
 これで、直交する 3 方向の微小変化量が求まったことになります。要するに、これが直角座標と同じように扱うために必要な微小変化量なのです。xyz 座標における dx, dy, dz と同じ役割を果たすのは、dr, dθ, dφ ではなく dr, rdθ, rcosθdφ なのです。これからの見通しを簡単に言うと、偏微分における dx, dy, dz がそのように置き換わるために、ナブラおよびラプラシアンの表記が変わってくるので、それを調べていこうということになります。

直交曲線座標におけるナブラ

 以上の話題から、直交曲線座標において、微小量を xyz 座標における dx, dy, dz のようにシンプルに (平等に) 扱えるようにしたい場合は、
006.png
という置き換えが必要になります。このように定義した ds を使えば、直交曲線座標における各種偏微分の扱いも、xyz 座標のようにとてもシンプルになります。これはこのような置き換えによって、それぞれが同じ尺になったからです。したがって、関数 u の勾配は
007.png
のように表現できます。一番右の式は純粋に ds = hdq に置き換えただけの関係式です。
 これより、一般の直交曲線座標におけるナブラの定義は
008.png
であることがわかりました。ここで注意したいのが、単位ベクトルの位置です。このサイトでナブラのことを知った人は、[2] の記事で定義した時に
001.png
と紹介したので、話が違うではないかと思うかもしれません。実は、偏微分の前にある方が正式な表記です。ただ、 xyz 座標では上のように偏微分の後に置くことも許されます。なぜならばxyz 座標における単位ベクトル i, j, k は定ベクトルだからです。
 前に置く方が正しいというのは例えば勾配の意味を考えれば分かります。 grad u は、それぞれの方向にどれだけ変化しているかを表す量です。どの軸でもいいのですが、その軸の変化量をとって、その軸の方向を向いていなければならないのです。一般の直交曲線座標は、極座標の例を見ても明らかなように、3 方向は直交しますが、点によって向きが全部違います。単位ベクトル自体も定ベクトルではなく関数なのです。したがって、偏微分の右に置くと単位ベクトル自体も偏微分するという意味になってしまい、本来のナブラの意味をなしません。「その方向の変化量をとって、その方向を向かせる」のが勾配です。

直交曲線座標における発散

 このナブラの定義を使えば、非常に単純にラプラシアンが計算できますが、その計算は大変煩雑です。今書いたように一般の直交曲線座標では単位ベクトル自体も定ベクトルではなくベクトル関数になっているからです。したがって、この定義を元に形式的に div grad u を求める方法は、おすすめできません。他に、偏微分の公式を使って導出する方法もあるのですが、いずれも機械的な計算ではあるものの、計算量大変多いので、実用的とは言えません。
 そこで、そういった機械的な計算ではなく、イメージ先行でどうにか計算を最小限で済ませる方法を考えます。ここで鍵を握るのが、発散です。以前、発散は
009.png
で表現できることを知りました。このことは既に [4] の記事で示されています。
 なお、この式は、暗記するようなものでは全くなく、これそのものが発散の定義です。発散というものは、その点で流れ(流束)は出ているのか入っているのかを表す計算だということを知っています。流束を集計するのは面積分です。それがある点で流れるか出るかを知りたければ、小さい体積を取って無限小に縮めてやればいいのです。まさにこのイメージを数式という言葉に翻訳しただけのことであり、上の式を覚えるにしても意味のない記号の羅列として覚えることはオススメできません。
 それでわかりにくかったら単に微小体積における発散定理だと思ってもいいです。体積 ΔV における発散定理を作り、体積が微小なことを利用して平均値の定理を使い体積分から ΔV を出してやった後両辺を ΔV で割れば上の式はすぐ得られます([6]の記事で勾配定理・回転定理に対して行ったことと全く同じ)。
 発散をわざわざこのような表記に直したのには、[4] の記事でも書きましたが、「座標系によらない表記にする」という重要な目的があります。この式は単に、「流束を集計して集計した閉曲面の体積で割り、極限を取る」と言っているだけです。この定義は極座標だろうが、一般の直交曲線座標だろうがそのまま成り立ちます。このため、方針としては、 [4] の最後でやったことと全く一緒です。今回は逆にこの発散の一般的な表現を前提として、任意の座標系における ΔV を作り、表面 S の面積分 f・ndS を計算し、 ΔV→0 の極限を取るのです。これで、直交曲線座標において発散がどう表現されるか簡単に知ることができます。
上の図を見て下さい。これからの議論は [4] の最後と全く一緒です。ただ dx, dy, dz を ds1, ds2, ds3 に置き換えて同じ議論を繰り返しているだけです。別に結果に影響しないのでどっちでもいいのですが、以前は直方体の中心を起点としたのに対して、今回は図のように置きます。
 既に書いたように、xyz 座標と同じように微小量を簡単に扱うためには ds=hdq としてそれぞれのパラメータによる尺の違いを平等にしてあげなければなりません。そこで、上の図では dq そのものではなく ds=hdq が三辺の長さに相当しているわけです。これより、例えば q1 方向に対しては、
010.png
であることが分かります。dx, dy, dz と同じように扱うには ds1, ds2, ds3 を使うことが必要です。したがって、微小面積 dS も、上の場合直角座標なら x 方向に対して dxdy としたところですが、一般の直交曲線座標ならば ds2ds3 に相当します。つまり dS = h2h2dq2dq3 でなければなりません。
 式を見て分かるように、h2h3E1 そのものを一つの関数と見れば、q1 に分母を付けることでそのまま微分になります。
011.png
このように 1= X/X を出現させて目的を達するといういつものパターンです。これで長々とした分数は微分になり
012.png
となります。
 あとの方向は数字を入れ替えるだけなので調べる必要は必要ありません。以上から、
013.png
であることがわかります。最後に体積 ΔV ですが、これも簡単です。ゼロ極限において xyz 座標では dV= dxdydz でしたから、一般の直交曲線座標においては dV = ds1ds2ds3 です。このことを使えば
014.png
であることがわかります。これが直交曲線座標における発散の表現です。一つも省略せず書いたため、時間がかかったかもしれませんが、イメージさえできれば途中の計算など必要ありません。

一般の直交曲線座標におけるラプラシアンの定義

 以上で道具が揃いました。
007.png
015.png
 これらを組み合わせれば、∇2u = div grad u が簡単に求まります。
016.png
これが一般的なラプラシアンの定義です。これに座標系ごとの h を代入すればすぐに各座標系におけるラプラシアンが分かります。文字にすると長かったですが、イメージさえ分かっていれば、これ自体はすぐ導出できます。
 これで、極座標におけるラプラシアンを求めるための準備が整いましたが、一般の直交曲線座標で一貫して話を進めてきたことからも分かるとおり、座標系に対応した h を求めてやれば、どの直交曲線座標でもこの公式が使えます。そこで、最終的な結果もより簡単になるため円筒座標から調べましょう。

円筒座標におけるラプラシアン

 円筒座標 (r, θ, z) の場合、図より
017.png
であることがすぐ分かります。r はそのまま進行方向を向きますし、z は定ベクトルです。結局尺を合わせなければならないのは θ だけであり、これは角度なので係数が r になることがすぐに分かります。あとは代入すればすぐです。
018.png
以上が、円筒座標におけるラプラシアンです。難しい計算が何もないことが分かります。使っているのは積の微分だけです。

極座標におけるラプラシアン

019.png
これもそのまま代入するだけ。積の微分しか使いません
020.png
これより、
002.png
が得られます。
 以上から、一見不規則に見えるこのラプラシアンの表記の変化の仕方も、「直交曲線座標系」というくくりで根源的な部分を見ていけば、結局一つの規則の下に成り立っているということが分かります。厳密な議論は何もしていないのでこれをもって「理解した」とはいえないかもしれませんが、とても対称的な「鋳型」からこれらの表記が得られることを知れば、少しは親しみも持てるのではないでしょうか。

まとめ - 最短の手順でラプラシアンを得る方法

step1. 尺の違いを考慮する
 
 任意の座標系を頭に思い浮かべ、さらに任意の点 P でそれぞれの方向の微小量が直交している図を思い浮かべます。例えば極座標だったら、半径はがそのまま伸びるのは結構ですが、他のパラメータは角度なので、微小量増えるとその増えた微少量そのものではなく、今の半径に比例した量だけ、実際の移動が生じます。これらの効果を考慮した 3 成分
022.png
を求めます。これこそが xyz 座標における dx, dy, dz に相当するものなのです。
 
step2. 発散を求める
009.png
 この式そのものがまさにイメージ通り、発散の定義です。これが座標系によらないことを利用して流束を計算します。
 ある点 P を起点とした微小な直方体を作り出します。どの方向も扱いが同じなので 1 方向だけ求めたらあとは数字の入れ替えですむことが分かります。そこで ds1 方向の出入りを計算し、dV = ds1ds2ds3 に注意すれば
012.png
が暗算で求まります。あとは数字を入れ替えた物を加えれば
015.png
が完成します。
 
step3. ラプラシアンの公式の完成
007.png
015.png
 を組み合わせ
016.png
が得られます。ここに実際の h を代入すればラプラシアンが得られます。あるいは最初から具体的な座標系を考えて h に代入した状態で計算しても同じです。

その他の記事

コメント

名前 :
電子メール :
URL :
コメント